【近代文学】”無頼派”文士の、名言ならぬパンチライン傑作選。太宰、安吾、オダサク

140字のテキストのやり取りが主流になり、文学離れが叫ばれて久しい。それでも、日本近代文学史の中でカルト的な人気を誇る作家・太宰治の名前を知らない人は少ないだろう。6月は太宰が年前に自ら命を絶った月であり、6月19日は太宰をしのぶ「桜桃忌」だ。東京都・三鷹の墓前には今も毎年、弔いに集まる人が後を絶たない。今年は新型ウイルスの影響で人出もまばらになるだろうか。

 そんな太宰たちは存命時、”無頼派”と呼ばれた作家グループだ。彼らは第二次世界大戦中から戦後を若者として生き、従前の文学と社会秩序に反発。小説や随筆の形で、反モラル、反俗、反逆的な言葉を書き飛ばした。

 さて現代に戻れば、日本をはじめ、歴史を直視しない極右が先進各国で次々と政権を握り、全体主義や差別、排外主義が台頭している。今はもはや「戦後」ではなく「戦前」だという心構えでいるべきなのかもしれない。

 無頼派とみなされる作家の中でも、特に志向が共通する太宰、坂口安吾、織田作之助をもって「無頼派三羽ガラス」と呼ぶことがある。今回の記事では、こんな時代に彼らの墓を掘り起こし、この三羽による強烈な名言を、いや”パンチライン”を、ごく簡単に紹介する。


1. 太宰治(1909~48)

 太宰は青森・津軽の大地主の家庭で生まれ育った。上京しデビュー、人気作家になった。最期は1948年6月、愛人と共に東京の玉川上水に身を投げ、自ら命を絶った。享年38歳。

無頼派の太宰治
太宰治 / パブリックドメイン

「恥の多い…」

 恥の多い生涯を送って来ました。

『人間失格』

 誰もがどこかで見聞きしたことがあるであろうパンチライン。累計670万部を超え今も売れ続ける超ロングセラー小説「人間失格」の有名な一説だ。作中では主人公・葉蔵の手記の書き出しとして使われている。まるで太宰自身が自分の人生を独白しているようにも錯覚させられ、否応なしに興味を惹かれる一言だ。

「恋と革命のために」

 人間は恋と革命のために生れて来たのだ。

『斜陽』

 「斜陽」から。これぞパンチライン。愛人との入水で亡くなった人間の言葉だと思うと、説得力どころの問題じゃない。

2. 坂口安吾(1906~55)

 安吾は新潟市出身。ボードレールらの影響を受けた反抗期に「落伍者」になろうと決意。純文学小説にとどまらず推理小説や歴史小説も発表、随筆や評論なども含め多彩な仕事をした。48歳で突然亡くなった。

坂口安吾 / パブリックドメイン

 「この道なのだよ」

 俺達二人の一生の道はな、いつもこの道なのだよ

『白痴』

 東京空襲の中、知的障害のある「白痴」(注:当時の言葉。今は差別用語)の女性と肩を抱き合って逃げ惑う主人公が語ったセリフ。わけのわからない極限状態の中で、なぜか究極に決然とした言葉を吐く主人公のアティテュードに打ちのめされる。絵面を想像すると、なお壮絶なラインだ。

「人間だから堕ちる」

  人間だから堕ちるのであり、生きているから堕ちるだけだ。

『堕落論』

 有名な随筆「堕落論」より。「ポジティブ」ばかりがもてはやされる現代社会は、本当にあるべき姿なのだろうか? 本質に迫ったこのパンチラインは、改めてそんな当たり前のことを考えさせてくれる。

3. 織田作之助(1913~47)

 愛称「オダサク」で知られる。若い頃は劇作家志望だったが、スタンダールの影響で小説を志向。大阪出身で、大阪を舞台にした作品を多く発表した。眠らずに執筆し、33歳の若さで閃光のようにこの世を去っていった。

織田作之助 / パブリックドメイン

「大した作家ではない」

マーク・トウェーンという作家は、
私の読んだ限りでは大した作家ではない。

『中毒』

 「ハックルベリー・フィン」「トム・ソーヤ」で知られるマーク・トウェイン(1835~1910)は、いまだに尊敬され続ける米国の作家だ。そういう人を「大したことない」と主観で言い切るきっぷの良さがオダサクらしい。

 強調したいのは、無頼派文士たちは他人をDISりまくるスタンスだったということだ。オダサクも太宰も安吾も、文壇の権威やふんぞり帰った人々への辛辣な言葉を残した。
 昨今、インターネット界隈では「誹謗中傷はやめましょう」という風潮が強まるばかりだ。しかし少なくとも無頼派は、そんなくだらない説教に付き合わなかったということがわかる。

「共鳴せえへんか」

 僕と共鳴せえへんか 

『夫婦善哉』

 代表作「夫婦善哉」より。主人公の柳吉が、”カフェの女給”(現代で言えばクラブのホステス)に向かって使った必殺の口説き文句だ。そういった水商売の相手に向けて、「共鳴」というわかるようなわからないような概念を持ち出して口説こうとするところに、おかしみ、あわれみ、すごみがある。

 大阪をレペゼンし続けたオダサクらしい一言。「夫婦善哉」は大阪カルチャーの魅力に溢れ、他にもたくさんのパンチラインを搭載した、古くて新しい小説だ。

4. 終わりに

この記事では無頼派文士たちの有名な言葉を、わずかながらだが改めて紹介した。当時、戦争を経て社会が大きく転回する中、彼らは偽善を見抜き、風見鶏を嫌い、気に入らない権威には穏当な批判のみならず「真っ向からのDIS」を向けた。大御所との「BEEF」にもたびたび発展した。三人とも長くは生きなかったが、社会に重要な爪痕を残していった。

 21世紀を生きる私たちにとって、彼らのメッセージはどう響くだろうか。「政治的正しさ」や「差別」や「ファシズム」が日常的なテーマになり、きな臭い世相になってきた今、これらのパンチラインの威力が蘇る時は近いのではないだろうか。
 少しずつ私たちの距離は近づいてきている。


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